ショートレクチャー『バイオマス利用の可能性と展望』
(空気調和・衛生工学会中部支部 第20回建築設備研究会)
 
日  時: 2019年12月16日(月) 15時30分〜17時30分
会  場: 名城大学ナゴヤドーム前キャンパス・西館2F DW207(レセプションホール)
(名古屋市東区矢田南4-102-9)
最寄駅:地下鉄名城線「ナゴヤドーム前矢田」駅
主  催: 空気調和・衛生工学会中部支部 建築設備研究会
参 加 者 : 50名
 

 気候変動が深刻化するなか、循環型社会システムへの転換を進める上で注目されるバイオマス利用をテーマに、3題(4名)の講師から講演をいただいた。
 最初のご講演は、鈴木高広氏(近畿大学・教授)である。冒頭、近年の太陽光発電の導入量が急増したことに触れ、太陽光発電ビジネスの盛況が中国を初めとする途上国の経済成長を支え、結果的にCO2排出量が急増した一因となったことが紹介された。次に、地球温暖化に伴う海面上昇が地殻への荷重増となり地震の発生を増やしているという説が紹介された。化石燃料代替としてバイオマス事業を進める上で、CO2削減に留意する重要性を強く主張された。今の日本のバイオマス事業で使われている燃料は多くは「廃棄物」だが、鈴木氏は、ソーラーパネル遮光下でのサツマイモを原料としたバイオマス事業を提案された。サツマイモは弱い光でも育つことに加えて、光合成効率やメタン発酵効率も高い。課題は、日本の農業に掛かる費用が高価格であるとのことであった。  講演後、会場からは、燃料作物型のバイオマス発電と廃棄物型のバイオマス発電の効率について質問があり、燃料作物型では9割、廃棄物型では7〜8割で、効率という点では何倍も変わるわけではないとの回答があった。このほか、地球温暖化と地震との関係について質問があった。

 2題目として、福島和彦氏(名古屋大学・教授)に、木質バイオマスについてご講演いただいた。本題に入る前に、「パリ協定」の基金に多額の資金提供をしているにも係わらず、日本が2度目の「化石賞(温暖化対策に消極的な国に対して与える不名誉な賞)」を受けたことや、海水温の上昇など地球温暖化が着実に進行していることなど、日本の置かれている状況の説明があった。この打開策として、CO2削減に貢献できるマテリアル利用を含めた木質バイオマス利用を提案された。利点は、木質バイオマスによるエネルギー削減に加え、マテリアル利用による炭素貯蔵効果と製品の製造工程に必要な間接エネルギーの低減である。また、森林によるCO2吸収能力は木が高齢級化すると減少するため、木材の利用を含めた林業・木材産業の活性化が重要で、セルロースナノファイバーとしての活用や、CLT(Cross Laminated Timber)材に加工することで、中・大規模建築の構造材としての活用が可能であると説かれた。その上で廃材を熱電併給で利用することが望ましいと述べられた。
 講演後、木質バイオマスを活用する上で、供給源である森と使用する町との距離的な関係性のあり方に関する質問などが挙がった。

 最後に、静岡県の河野明子氏と吉田明俊氏に、静岡県のバイオマス発電事業について紹介いただいた。前半に河野氏から、東日本大震災の原発事故により、浜岡原発が全号機停止になったため、県内の電力自給率が著しく低下した静岡県の現状と、これを機に、脱炭素化を目指し、太陽光、バイオマス、中小水力、風力などの再生可能エネルギーの取り組み(ふじのくにエネルギー総合戦略)を始めたことが紹介された。戦略課題は、創エネ、省エネ、地域の経済活性化である。バイオマス関連の取り組みとしては、小山町木質バイオマス発電事業や、小型メタン発酵プラントの事業化・普及の推進を行っており、本年度からはバイオマス設備導入の支援制度なども始まったことが紹介された。後半は吉田氏から、御前崎港バイオマス発電事業についてお話をいただいた。港に木質ペレットやパームヤシ殻(PKS)を資材にした発電施設が建設される予定であるとのこと(出力74950kW、運転開始は令和5年予定)。  講演後、小型バイオマス発電の建設費に関する質問があり、およそ5〜7千万円と回答があった。御前崎のバイオマス発電については、低コストだからと言って海外からの輸入材を用いるのは如何なものか、将来的には県産材(端材)を利用してほしいなどの意見が挙がった。

 各テーマ、30分という時間的な制約があるなか、濃密な内容をお話いただいた。講演者の皆様にお礼を申し上げたい。

 
記録:名市大 原田