◆講演会
 
第10回建築設備研究会「先端的な設備設計事例に学ぶ」
 
場 所: 東桜会館 第2会議室
日 時: 平成26年12月12日(金) 14時〜17時
参加者: 58名
題目・講演者:
「豊洲キュービックガーデンの計画・設計・施工」
「オムロンヘルスケア 研究開発及び本社新拠点」
「京都水族館における環境共棲技術」
笠原真紀子氏(清水建設・設計長)
加藤正宏氏(鹿島建設・チーフエンジニア)
斧田浩一氏(大成建設・シニアエンジニア)

 空気調和・衛生工学会では新進の研究者・技術者を育成することを目的に、技術振興賞を設けて表彰している。これまで中部支部の受賞作品については見学会や研究発表会などを通してその詳細を知る機会があったものの、他支部の受賞作品については詳しい話を聞く機会がほとんどなかった。そこでこの度建築設備研究会では、近畿支部2件、関東支部1件の今年度の受賞作品を題材とし、最新の取り組みを学び、知見を広めるべく本講演会を企画した。

 
【笠原真紀子氏の講演概要】

 豊洲キュービックガーデンは、東京湾に近接し、眺望に恵まれたW76m×D89m×H75mのキューブ型14階建てオフィスビルである。
 ご講演は、「大空間オフィス」「環境配慮型オフィス」「BCPオフィス」という3つの建物コンセプトのお話から始まった。東京湾岸の景観を活かした開放感のあるオフィスを実現するために、全層型ダブルスキンを採用した経緯や、設計時のシミュレーション結果と実測結果が紹介された。夏季においては上部排気を行うことで、ダブルスキン内を実測値で約3℃温度低下させ、冬季においては最上部のダンパを閉鎖することで、ダブルスキンの断熱性能を向上させることが確認できたとのこと。
 その他、大空間を補完する設備計画として、ブラインド制御による昼光利用、人感センサと連動した照明・空調制御システムの概要、採用空調方式やエネルギーの見える化の取り組みや消費エネルギーの実績、さらに、耐震構造や非常時の電源供給ルートなどBCP対応についてのご紹介があった。
 ご講演後、ペリメータゾーンの冬季温熱環境/BCPに関する幹線の設置状況/ダブルスキン内の電動ブラインドのメンテナンス方法/ペリメータ部の空調系統/意匠担当と設備担当との協議についてなどの質問が寄せられた。

 
【加藤正宏氏の講演概要】

 オムロンヘルスケアの研究開発及び本社新拠点は、JR桂川駅(京都府向日市)近くに立地する7階建ての建物である。
 まず、働く人の知的生産性を向上させる職場環境の形成すること、省エネルギーを実現するために多様な先端的環境配慮技術を採用し、環境配慮型オフィスを目指すことなど、設計コンセプトのご紹介があった。
 次に、南北に長い建物配置を補完するために太陽光追尾型の可動式縦ルーバーや庇を採用した点、またその効果についてお話いただいた。その後、省エネルギーとオフィスワーカーの快適性を両立する設備計画として、新開発のサーマル人感センサを用いた在・不在に合わせた照明・空調制御、夏季のレタンバイパスを用いた除湿優先制御、冬季の二段加湿による室内湿度の維持などについて説明いただき、実測データによる検証結果もご紹介いただいた。そして、アトリウム空間での重力換気の活用やユーザ参加型の自然換気システム、研究者の創造性を発揮できる場として設置した集中思考室でのタスクアンビエント空調についてご説明いただいた。
 さらには、太陽光発電と組み合わせたBCP対応の中で大幅なエネルギー削減を達成していることや知的生産性の向上についてPOEとレーザーセンサによる行動モニタリングの実施状況についてご紹介いただいた。
 ご講演後、湿度優先制御とは何か/冬季の日射優先の縦ルーバー制御による暖房負荷低減の可能性/集中思考室の風向調整/集中・創造・コミュニケーション・リフレッシュ室の設計上の配慮についてなど、多くの質問が寄せられた。

 
【斧田浩一氏の講演概要】

 京都水族館は京都梅小路公園の一角に立地する、全国でも珍しい内陸型の水族館である。
まず、海沿いでないため海水利用が難しいこと、京都の景観条例による規制、地中の文化財保護のための地下利用制限など、様々な制約のお話からご講演は始まった。
 設備スペースの制約により、日中のピーク負荷に対応できない可能性があることから、この問題を解決すべく、イルカプールが施設内の水槽容量の約半分を占めること、さらにイルカは哺乳類であることから水温変化への耐性があることに着目し、プールを水の蓄熱槽として氷蓄熱と併用した複合型熱源システムを採用した経緯についてご紹介があった。さらに、夜間電力によるプールの水温制御の実施とその効果についてご紹介や、暑さ対策として屋外イルカスタジアムへのミスト噴霧装置の設置、スタジアム屋根一体型の太陽光パネル、雨水利用システムについてのご説明があった。さらに、内陸型の水族館特有の、人工海水製造システム、高性能濾過システム、海水再利用システムに関しても丁寧にご説明いただいた。
 ご講演後、潜顕分離による熱源容量の低減の可能性について/クールピット内の結露・カビ発生の状況について/イルカプールの水温制御が実現できた要因と冬季の放熱防止策などについて、質問が寄せられた。

 

 研究者だけでなく、若手の設備設計者や設備を学ぶ学生など幅広い参加者を得て、活発な質疑討論が行われ、先端的な取り組みを学び知見を広める貴重な機会となった。 (文責・青木哲)